« 2013.03 TOPICS 世界から注目を浴びる伝統工芸 | メイン | FLOM2013年03月号 目次 »

2013.03 TOPICS 世界から注目を浴びる伝統工芸
      有限会社龍泉刃物

国際舞台で魅せた越前打刃物
本格的な海外展開へ加速

  24ヵ国のフレンチシェフが腕を競い合う『ボキューズ・ドール国際料理コンクール』が今年1月にフランスで開催され、日本代表のシェフが銅メダルを獲得しました。これは、日本人として初の快挙。しかし、フランス料理界で最も権威ある大会で輝いたのは料理に留まりません。そこで紹介使用された越前打刃物製のステーキナイフにも熱い視線が注がれました。その製造元は越前市の有限会社龍泉刃物。今回は、開発をサポートした当センターの保坂武文PM(プロジェクトマネージャー)を交え、増谷浩司社長に開発プロジェクトをふり返っていただきました。

knaife_1.jpg

『ボキューズ・ドール』モデルのステーキナイフ。
料理との調和を整え、越前打刃物の独自性をハッキリ打ち出しました。
刃の波紋模様がダマスカス鋼の特長。龍泉刃物の技術により、
独特の鱗方の模様(意匠登録済)が浮き出ています。
(クリックで拡大)


欧州での越前打刃物売り込みに
星野リゾートが着目

  先の大会で世界第3位に輝いたのは浜田統之氏。旅館の名門、星野リゾートが軽井沢に構える『ホテルブレストンコート』のレストラン『ユカワタン』で総料理長を務めています。大会で紹介されたステーキナイフは、龍泉刃物が同レストラン向けのナイフを開発する過程で製作されたものでした。

  事の発端は今から2年前の春。中小企業による世界的ブランドの確立を国が支援する『JAPANブランド』の一環で、越前打刃物製包丁を欧州向けに発信していた龍泉刃物がホテルの目に留まります。熱烈なアプローチを受け、レストラン仕様のナイフを開発する『サムライエッジ・プロジェクト』が本格始動しました。プロジェクトに取り掛かかった当初を、増谷氏はふり返ります。

「ステーキナイフという新分野への挑戦だから、開発のいろはが全然分からない。だから、保坂さんに開発手法や進め方などのアドバイスを求めながら進めていきました」

 デザイナーとして渡辺弘明氏((株)プレーン 代表)が加わり、ホテル支配人の菊池博文氏、浜田氏とも密接に連携。互いに軽井沢や福井を行き来するなど、打合せや試作を幾度も重ねていくことになります。


保坂PMらの助言・協力を得て
細部まで緻密な技術駆使し
魚料理部門世界トップへ

  スパッと切れる刃を。でも、皿を傷つけるのはNG-。ホテルから与えられた最重要課題です。

「刃がギザギザの一般的なナイフでは、肉の形を潰して汁が溢れ出るし、刃を往復させるので皿を傷つけてしまう。料理の味わいが損なわれることを危惧されたのでしょう。最も技術力が問われるテーマでした」

 多くの方の協力を得て様々な素材を使用し、試作と検討を繰り返した結果、武生特殊鋼材(株)の「ダマスカス鋼」に辿り着きます。異種のステンレス鋼を2層に重ね鍛造した同社のダマスカス鋼を用い、龍泉刃物が砥ぎを施して抜群な切れ味を実現しました。また、美しい波紋模様もこの鋼材のもつ大きな魅力であり、これには、無地を求めていた浜田氏も方針転換するほど。既に浜田氏が『ボキューズ・ドール』日本代表に選ばれていたこともあり、是非使いたいとの要望を受け、大会での採用も決定。そしてこれが、"魚料理部門で最高得点"という浜田氏の快挙につながりました。

  「肉料理専用として開発を進めたところ、複雑な形状でも対応できる切れ味だとお墨付きいただき、魚料理でも使用したんです。だから、浜田さんの魚料理が頂点に立ったのは嬉しい限りです」

tanzou.jpg

職人技が求められる刃の鍛造工程。

 また、柄(持ち手)の部分では、安全性やスムーズな使い勝手、渡辺氏が考案した左右非対称というデザインを考慮。無垢のプレス鋼材を龍泉刃物が溶接して継ぎ合せ、軽くて最適な重量バランスを実現しました。「デザイン先行で形を決めたので、製造効率の面で無理が生じたこともある」と増谷氏。しかし、「どこを継ぎ合せしたのか全く分からない。技術力の高さとあくなき努力で難しい要求に対応できた」と、保坂PMは満足の表情を浮かべました。

  大会では、多数の審査委員のうち半数がナイフを持ち帰ったそうです。これは、性能やデザインに高い関心を示した証。これまでの苦労と努力に報いる成果を得ました。


前向きな行動で
欧州への販路開拓を加速

  龍泉刃物は今後、大会使用モデルを、星野リゾートのチャネルや『JAPANブランド』で培ったネットワークを活用し、欧州各国の三ツ星レストランなどに販路を拡大していく方針。既に大会前、"営業マン"浜田氏が現地のレストランを巡り、ナイフを渡しています。また、包丁の販路は欧州で広がっており、強みである「砥ぎ」技術がフランスで認知されつつあります。メンテナンス専用の工房を設置する要望もあり、実現可能性を検討中。さらに、高級品とのインパクトをより強く与えるパッケージも製作が進行しています。

増谷氏に大会を終えた今の心境を伺いました。

「開発に協力いただいた皆さんに感謝しています。保坂さんには、技術面で一歩先を行く提案や、市場ニーズを捉えたアドバイスをしていただきました。また、同級生の渡辺には、17年ぶりに会った時に、地元への貢献の思いがあることを知って協力を要請したのですが、恩返しができて良かったと言っていました。越前打刃物で海外に売り込むなんて、一昔前は考えたこともありませんでしたが、少しずつ意識の変化が起こってきたと感じています。確実な実績が保証されなくとも可能性が少しでもあれば、前向きに行動を起こさないといけない。決して守りの姿勢になってはダメだと」

 話を聞けば、増谷氏と若手職人(社員)がフランス語の勉強を開始したとか。本気で海外展開に挑もうとする意気込みが感じられます。

「増谷社長は、苦労しながら試行錯誤で物事を進め、"開発"を体得されました。高い技術目標をクリアする努力をし続けることで、このように世界が認めるブランドに成長するということを、皆さんにも分かっていただきたいです」と保坂PM。さらなる国際舞台での活躍を期待しています。

knaife_2.jpg
knaife_3.jpg

土産品向けに製作中のパッケージ。
越前和紙製のケース(上)と渡辺氏がデザインしたアクリルケース(下)。
他のカトラリー(スプーン、フォーク)とのタイアップにも期待を寄せています。

銅メダル受賞 浜田統之氏の声

皆さんのおかげで3位入賞できました。私一人というより、刃物、器、皿、木箱など全てに日本の高い技術を結集させた"オール・ジャパン"で勝負に挑み、世界にインパクトを与えたということで感謝しております。世界のシェフもナイフの切れ味に驚いていました。今後も世界の中で、何か面白いことが起こせそうな思いを抱いています。

masutani.png 代表取締役 増谷 浩司 氏

●企業情報●
有限会社龍泉刃物

越前市池ノ上工業団地49-1-5
電話:0778-23-3552
代表者:増谷 浩司 氏
事業内容:越前打刃物製品の製造
資本金:500万円
従業員数:10人

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.fisc.jp/mt/mt-tb.cgi/4221

当センター事業サイト