商品はどのようなプロセスで完成されていくのか。
企業によるアイデアの創出から新商品誕生までの
開発ストーリーを紹介します。
市場ニーズをすくいあげ女性向けレギンスを開発
大手メーカーの生産拠点が海外にシフトするなど国内製造業の事情が激変する中、自社製品開発に取り組む中小のメーカーが県内でも増えています。ここで紹介する株式会社ファインモードもその一つ。「OEMで培った技術で自社製品を」と社外ブレーンとのコラボレーションで女性向けレギンスを開発、このほど『i+f』(イフ)のブランドで販売を始めました。「レギンスの選択肢は多くない」という市場の現状を背景に企画がスタートした同商品。発売までのエピソードを、代表取締役の上坂達朗氏に伺いました。
辛口の評価を受けた
男性向け製品が端緒
自社製品の開発を、と話が持ち上がったのは4年前のこと。最初に手がけたのは、編み立てレギンスの技術を活用した男性向けインナーウェアでした。
もっとも、当初は通常業務の合間を縫って年間2回ほどの試作を行っていた程度。地元商工会議所の紹介で参加した『soco coco(地域産品販路開拓機会提供支援事業)』(※)にて、首都圏の百貨店バイヤーやインテリアデザイナーにプレゼンをしたものの〈商品としての完成度〉の観点から、辛口の評価も受けたそうです。
ところが、何が幸いするかわからないもので、その男性用インナーに注目した一人の女性がいました。それが、『i+f』の企画に深く関わることとなる、ブランディングプロデューサーの福田真弓氏です。
「東京にいる福田さんから『商品に興味がある』と、ある日突然電話がありました。それで福田さんのことをネットで調べたら『丹南産業フェア』に講師としてくることがわかったんです。商工会議所の方のご紹介でお会いすることができて、それをきっかけに女性用レギンスの開発が始まりました。昨年の6月ごろの話です」
プロジェクトにはほどなく、ふくい産業支援センターデザイン振興部が実施する「デザイナー派遣事業」から、テキスタイルデザイナーの三木あい氏(越前市在住)も参加。海外大手アパレルメーカーのデザイナーとしても活躍する三木氏の手により、雪の結晶やフクロウ、ハスの花など〈秘密にしたい福井のパワースポット〉をテーマにした5つのデザインができました。
商品化にあたりいちばん苦労したのは、三木氏が起こしたデザインを「はいたときに美しく見えるように」調整することでした。
「図面と実際にはいたときでは、模様の見え方にずいぶん差があるんです。最初に試作したフクロウ柄は、実際にはくと柄が伸びて『となりのトトロ』みたいでした」。納得のいく見栄えになるまで、それぞれの柄について3~4回は試作を重ねたのだそうです。
「話が来たらすぐ動ける」
普段の体制作りが大切
今年4月下旬から、福田氏の故郷である広島県のセレクトショップで『i+f』のテスト販売がスタート。初回出荷の100枚は早々に在庫切れとなり、取材時(5月上旬)には追加オーダーに対応している真っ最中でした。好調な滑り出しの背景を、上坂氏はこのように説明してくださいました。
「ブラウスやスカート、靴に関しては非常に多くの選択肢があります。でも、レギンスは必ずしもそうではない。1着数万円の服を着ている人も、ファストファッションでコーディネートしている人も、一様に1本1000円~2000円程度のレギンスをはいているという現状があるのです」
鮮やかな発色、そして同社の巻き縫いの技術を応用した縫い目の目立たないリバーシブル仕様。しかもそれを1本8000円という価格で提供する――コストやロットの面で大手が参入しづらい現状に風穴をあける存在、それが『i+f』というわけです。
「福田さんと出会って1年足らずで『i+f』を世に送り出せたのは、支えてくださる方とのご縁、タイミングが重なったからだと感じています。商品はいきなりできるものではありません。チャンスが訪れたときすぐ動けるよう、自分たちが持つ技術で、少しずつ動いていたのがよかったのでしょう」
当面の目標は、出展審査が厳しいとされるファッション業界の合同展示会『ROOMS』(年2回東京都内で開催)でのデビューだそうで、それを突破口に首都圏のセレクトショップや百貨店に打って出たいと上坂氏は意気込んでいます。
(※)中小企業庁による事業。「全国各地の中小企業が開発した商品を、全国に広める機会をより多く設ける」をテーマに、全国主要都市の百貨店で『soco coco』というブースを設け3ヵ月~6ヵ月展示する。
代表取締役 上坂達朗 氏
株式会社ファインモード
越前市行松町17-3-2
代表者:上坂達朗氏
資本金:300万円
事業内容:縫製加工
従業員数:20名
TEL:0778-22-8034