vol.69
情報誌 F-ACT
vol.69/ 2025.01.27 発行
【特集】伝わる見せ方
- 【CASE1】株式会社ドゥーガブレインズ
- 対談 伝わる見せ方の第一歩
- 6名のクリエイターに聞く「伝わる見せ方」
- 【CASE2】柳瀬良三製紙所
- 伝わる見せ方実践編 ~東京ギフトショー~
- 【今月の注目企業】株式会社山元眼鏡商会
- 【シリーズ】よろず支援拠点経営Q&A
- 【シリーズ】総合相談窓口からのご案内
- 【シリーズ】ふくいDXニュース
- 【シリーズ】中小企業産業大学校の注目研修
- 【シリーズ】グッドデザインシンキング 《第58回》株式会社ジャクエツ
- 上海事務所レポート
- 【シリーズ】話題の新スポット巡礼 《第41》うちのぶどう
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vol.69 Web限定記事
<フルバージョン>
伝わる見せ方の第一歩は
内部のブランディング(想いの言語化)から
本誌で掲載した対談について、誌面の都合上掲載できなかった内容も含めてご紹介します。

F-ACTVol.69「伝わる見せ方」を特集するにあたり、(一社)福井県クリエイター協会会長 景山 直恵氏と、福井と東京の 2 拠点で活動されているブランドマーケティング コンサルタント 有田 貴美江氏に伝わる見せ方についてお話いただきました。
■「奥ゆかしくて出過ぎない」県民性が間違いなく変わってきた(景山)
■これから見せ方の部分のレベルはぐっと上がっていくんじゃないかな(有田)
景山 直恵氏(以下、景山):有田さんは主に東京で活動されていて、福井の人って伝えるのが下手だなって思うことありますか?
有田 貴美江氏(以下、有田):そうですね。福井ってなんかとてもいいものを持っているのに、見せ方とかはいまいちだなぁと以前から感じていましたね。
景山:私も住んでいて思うぐらいだから、多分、外から見ると余計あるなっていうのはあって。でもそれってもう昔からというか。
有田:景山さんはなぜそんな感じになっていると思いますか。
景山:良く言えば、奥ゆかしくて出過ぎないことの美徳という、そんな県民性があるんじゃないかと思います。ただそんな中で、新幹線の開業があって、5、6 年ぐらい前から駅周辺の工事が始まり少しずつ現実味を帯びてきて、いろんな補助金もあるから、じゃあ新しいお土産を作ろうとかという風に少しずつ少しずつみんなの気持ちが高まってきて、開業後はさらにいろんな恩恵も感じるようになったことで、今は間違いなく機運が変わってきました。
有田:私が東京と福井との二拠点で活動を始めたのは、2022 年 9 月の「ふくい NEW 経済ビジョン」の委員会の頃だから私の知っている福井の変化って、この 2 年ぐらいなんですが、仕事柄、経営者の人たちとご一緒することが多い中で今、経営者がちょうど世代交代に来てるのかなって思っています。
だいたい 40 代後半ぐらいから 50 代前半の社長に代替わりをしている会社が増えていて、マーケティングをご自身でもすごく勉強されていて、ブランド価値を上げていく、製品や企業自体の価値を上げていくことを重視されている。今まではコストと意識されていた活動を、今の世代の方たちは投資と捉えていて、経営者の代替わりのところで一つ大きな機運が来ているなというのはすごく感じます。
景山:さっき言った、奥ゆかしいという世代じゃなくなってきているというのは、私も感じています。若い世代の人たちは、ネットでマーケティングや世の中で今どういうものが売れているかということを理解した上で経営をされている。だからこちらも仕事がしやすいというか、逆に教えてもらうこともあるぐらいです。
有田:だから今回の見せ方というところでも、一番のベースとして最初に県民性という話が出ましたが、やっぱりマインドセット、意識によってやっぱり全然変わる。この代替わりの時期にあって、潮目が変わってきてるというところで、これから見せ方のレベルはぐっと上がっていくんじゃないかな。
景山:デザイナーの立場で言うと、以前は自分のデザイナーとしての主張が大きいというか、こんな格好いいのを作ったぞ、ぐらいの感じもあって、それが良い成果に繋がる場合ももちろんあるんだけど、今はマーケティングをベースに「今の世の中はこうですから、こういう根拠でこういうデザインにしました」ということで、企業さんも納得して一緒にいい商品を作っていきましょうという意識がすごく高くなったから、本当に仕事がやりやすくなってきました。
なので以前は割とデザイナー個々の素養によって仕事がくるみたいな感じだったのが、コンサル的にデザインに取り組むデザイナーも増えてきているなと感じています。
有田:デザインの概念は、視覚的なものという風にかつては捉えられていましたけど、福井もすごく力を入れているデザイン思考というか、本来のデザインの意味というところに認識が変わってきています。今まではブランディングとマーケティングは別物で、ブランディングは見せ方とかデザイン、マーケティングはもっと営業寄りの反応を作ることと捉えられていましたが、本来はそういうことではなくて、誰に対してどういう価値を伝えていくかということを明確化して、それを体現したものがデザインとしてビジュアルとかコピーといったクリエイティブとして上がってくるんですよね。誰に対して何の価値をというところは、このマーケティングの部分がすごく大きい訳です。
ブランディング、マーケティング、デザインをバランスよく組み立てができると、福井も見せ方、伝え方が上手になるのかなって思います。今回のテーマとして「福井は見せ方が下手だから」というのは、この数年でもぐっとレベルが上がってきていますから、実はそんなに心配はしていないところはありますね。

■経営者の想いが会社の内部で言語化できていなければうまく伝わるはずがない(景山)
■一番に取り組むことは内部のブランド戦略の構築。それができれば随分変わる(有田)
有田:私は企業の内部で、ブランドをどういうふうに作っていくかということを長くやってきた人間ですが、福井の企業は営業とか製造部隊はいるんだけど、マーケティングの機能がないところが大半で、社長が勉強してやっているぐらいの感じが多いです。業種によっても違っていて、 BtoC のビジネスにおいてはマーケティングの部署を作ってはいるけれど、適切な人材がいなかったり、どう回していったらいいのかが分からなかったり。BtoB においてはマーケティングという考え方自体があまりないから担当部署や機能がないけれど、自分たちで BtoC や D2C の形で事業を進めていきたい企業や採用のブランディングというところで必要性はすごくわかっている。では、どう進めたらよいかということを考えた時に、まずは組織の内部を変革していくことだと思います。そこがあって、ちゃんとしたものを作るというところになってくると、それは自分たちの力じゃどうにもならないのでクリエイターにお願いする。
景山:最近クリエイティブを内製化したいという企業も多いんですが、私が企業にアドバイスするのは、例えば企業全体を客観的にしっかりと見せていくものは、クオリティや考え方的にも外部のクリエイターを起用した方が良いですし、SNS など頻度高く発信や更新をしていかなきゃいけない部分はやっぱり内製化が必要だから、そこをどう分けていくのかといったことですね。
いずれにせよ会社の内部で自分たちがどのお客さんに対してどういう価値を売っていきたいかという当たり前のことが、実は言語化できてなかったりとかする。なんとなく頭にあるだけでは社長と従業員でもずれているし、お客様にうまく伝えられないですよね。日本人って言語化することがとても苦手だったりする。
有田:確かにそれはありますね。
グローバル企業はまず言語化して定義するということをすごく重要視しているのですが、言葉で定義するってことができないと、思っていることが一緒にはならないんですよね。仕事におけるコミュニケーションって、やっぱり言葉にしないといけない。だから私は、ビジュアルのお手伝いより言語化させるところのお手伝いをしているところが大きくて、且つそこに組織をどう作るか、内部をどう作っていくかというのが仕事ですね。
景山:今回のテーマって、BtoC に対する見せ方、伝え方という風に解釈しがちだけど、実は内部でどう伝えるか、どう見せるかっていうことがすごく重要だという話のような気がします。
有田:そうなんですよ。ブランド戦略を作る時に大切なのは、自分たちのブランドのことを自分たちで考えて、自分たちの言葉で言語化していくこと。まず幹部と経営者で考えてもらうようにサポートしていくんだけど、そこで終わっちゃダメなんです。幹部は各部署のリーダーだから、リーダーが今度は自分たちのチームにそれをしっかり落としていって、その従業員たちが同じ軸の下で、自分たちの企業活動の役割の中で実践していく。それで一体感、統一性が生まれて、初めてそれがブランドになっていくという考え方です。
景山:本当に外に伝えようと思ったら、まず内側からっていうことですね。
有田:そうなんです。一番にまず取り組むべきことは内部のブランド戦略で、それができることによって随分変わってくると思います。

■本当に顧客と向き合うといろんなヒントが隠れているがこれを意外とやっていない(有田)
■クリエイター側の言語化のレベルアップと Cream をマッチングの場にしたいな(景山)
有田:私のクライアント対しては半年ぐらいの間、毎週セッションを続けて言語化を進めていきます。ブランド戦略って往々にして客観性を失いがちなので、自社と顧客と競合の 3 者の調査分析をし、そこから気づきやヒントを得て、さらに現実を踏まえてちょっと先の未来をどう作っていくかということを考える。ちょっと幹部教育みたいな要素も大きいです。驚くのは顧客重視といいながら顧客調査をやったことがない企業が多いこと。調査をして 1,000 人ぐらいの回答を得てみると、自分たちが思っていたお客様と実態が違ったということも実際にありますからね。
景山:そこまで調べている企業さんは、なかなかないですね。せいぜい自社の社員に聞くぐらいで。だから独りよがりになりがちというのはある。「うちのはおいしいってみんな言うから」とおっしゃるので、誰に聞いたのか尋ねてみたら近所の人や身内だったり。それは人間関係を悪くしたくないからおいしいって言うでしょうと。社員に聞きましたというのも、それは社長に対して製品の文句は言われんわという。人間関係がそこに影響してくるから、ちゃんとした調査をしているとは言えない。
有田:私は、お客様をブランドや企業に対してネガティブかポジティブか、購入の有無などから分類する 9 セグとか7セグというマーケティング手法をお勧めしていて、例えばリピートしてくださっているロイヤルの顧客に聞く内容と、購入前のお客様というのも違うし、購入したけど離反しているネガティブ要素を持っているお客様の負の部分を解消することによって先の方向性が見つけられるということもある。だから本当に顧客と向き合うと実はいろんなヒントが隠れているんだけど、これを意外とやっていない。
景山:やっていないですね。
有田:今の福井は新幹線開業もあって人が入ってきているわけだから、ここでやらなきゃいつやるの、ここを掴まなきゃもう二度とないぐらいのチャンスじゃないですか。そういう意味でも福井の経営者には良い流れが来ていると思います。
景山:ところで、有田さんが言語化をサポートするときには、ライターさんは入れるんですか。
有田:入れないです。ブランド戦略のところは入れない。ブランドの核の部分なので装飾をしてしまうと本質が見えなくなりますから、平易な誰もがわかる言葉でビジネス文書のように書くというのが前提です。
言語化するのが苦手だからまるっとお願いしますという経営者の方もいますが、辛いんですよ、言語化するのは。みんな必ずしも得意でもないし、なんとなく頭にあることを厳密に言葉に落としていかなきゃいけない。事実を直視することも必要で、避けたい気持ちも分かるんですけど、それは本当に自分たちのやるべきことなので。
それを、外部に出していくときに、例えばキャッチコピーとかブランドストーリーに落とす場合に初めてコピーライターを入れていくという流れです。福井には優秀なクリエイターの方た
ちがいるから、企業側がその意思を持って組めれば、自ずといいものができる。
景山:私は仕事をやっていく上で、なるべく答えは先に言わずに 2 つぐらいデザイン案を見てもらうようにしていますが、その場合にもこれがいいとか、これがダメという理由をきっちり文章化しないと企業の担当者も上司にそれを伝えることができないし、腹にも落ちないだろうなと思う。「こっちのデザインだと気持ちが不安定になる要素があります」「こっちのデザインだったらここをもうちょっと変えると文字が目立って、見る人の気持ちが集中するので変えた方がいいね」という理由を全部箇条書きで文章化することは、手間がかかるようで逆に効率が良いと思います。
有田:すごく大切ですよね。
上司も含めて組織として判断していくときに、デザイナーと話して分かったことをその担当者がちゃんと言語化できないと、もうその上司にも同じチームにも伝わらないという残念なことが起こりがちです。それに、例えば大きい企業であれば異動があるんですよ。そうすると、誰かに引き継がなきゃいけなくて、言語化されていればうまく伝わる。デザインの意図やポイントを言語化して伝えるということはとても大切ですよね。
景山:そうですね。伝え方、見せ方には内側から言語化するというのがすごく重要だなということを再認識した今日の対談でした。クリエイター側にもそこがしっかりできる人を増やしていかなくちゃいけないなと感じましたし、このCreamを企業との会話を通して言語化し、それをビジュアル化するマッチングの場所にしたいなと思いました。

■福井らしくワンチームで、金沢とは違うやり方でいい伝え方ができるんじゃないか(景山)
■経営者とクリエイター、行政が一緒なテーブルで議論できる感じがありますね(有田)
有田:クリエイター同士はもちろん、経営者とも近い。やはり直恵さんも私も、目指しているのは経営のところからの一環したプロモーション、見せ方っていうところだと思うのですが、これまでは企業側が何をやりたいのか、どこ目指してるのか、経営戦略やブランド戦略といったものを明確にしないまま「デザイナーさんお願い」と丸投げしてくることってすごく多かったと思うんです。それが今は世代も変わって、マーケティングが特別なものじゃなくなってきて、同じ言語を持って話し始めてくると、経営者とクリエイターがすごくつながりやすくなってくるし、街の規模感もあって一緒なテーブルで議論ができる感じがあるのかなと思った。それと、行政との距離もすごく近くなった。
景山:確かにそうですね。何か一緒にやりましょうっていうのを、クリエイターが接着剤になって企業と行政をくっつけたりもできるし、この場所という関係もあるけど、行政の職員も見せ方と伝え方をどうしていいかというアドバイスを求めにここに来るという、いろんなところがフラットになっている。ここがハブになることで、何か面白いことできるなと感じています。

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